鉄鋼スラグを巡る主な事件やトラブル
2005年
7月 「神鋼スラグ製品」(神戸市)が親会社の神戸製鋼からスラグを買い取った価格が通常より高く、親会社に所得を移転したとして大阪国税局が所得隠しと認定していたことが発覚
10月 JFEスチール東日本製鉄所千葉地区(千葉市)で、スラグの堆積(たいせき)場から汚染水が海に流出しながら水質測定データを改ざんしたとして社員3人を水質汚濁防止法違反で略式起訴
2007年
8月 山陽特殊製鋼(兵庫県姫路市)がスラグをリサイクル販売した形を取りながら引き取った業者に販売額以上の運搬費などを支払う「逆有償取引」を行っていたことが判明。スラグは野積みされ健康被害を訴える苦情が相次ぎ、山陽が自社で撤去
2010年
2月 新日鉄名古屋製鉄所(愛知県東海市)でスラグを積んだ敷地内から高アルカリ水が名古屋港に流出していたことが発覚
2014年
1月 大同特殊鋼(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)でスラグの逆有償取引が判明。群馬県が同社を立ち入り検査
8月 八ッ場ダム(同県長野原町)の移転代替地でも大同渋川工場から出たとみられる有害スラグが使用されたことを毎日新聞が報じる
10月 名古屋市上下水道局が発注した水道管の取り換え工事で特定の数社が請け負った約220カ所で道路が盛り上がるなどのトラブルが生じていたことが判明。埋め戻し材にスラグが使われ、水を吸って膨らんだためとみられる
これは八ッ場ダムの工事に関わる整備事業で有害物質を含む鉄鋼スラグが使われていたという問題だ。本来は産廃である有害なスラグを、リサイクルの名の下に建設資材として工事に使っているという実態がある。スラグが商品であるなら、鉄鋼メーカーはスラグを販売して収益を得ていなければならない。しかしメーカーが別の名目で販売額以上の費用を支払う「逆有償取引」を行えば、販売に見せかけて安い費用で処分することができる。
逆有償取引であることが立証できれば、製品(商品)ではなく産廃と言えるだろう。また、スラグを道路の基盤材などに使用するためには、環境基準を下回っていなければならない。リサイクル偽装によって有害な産廃を工事に使用しているなら、違法行為としか思えない。刑事事件として実態を解明すべきことではなかろうか。
黒木睦子さんが訴えられた日向製錬所の事例は鉄鋼スラグではなく非鉄金属のフェロニッケルスラグであるが、このスラグの取引でも同様の疑惑が浮かび上がってくる。つまり、逆有償取引をして有害なスラグを埋めたという疑惑だ。
黒木さんのこちらやこちらの記事によると、日向製錬所は運搬会社サンアイにスラグを売ったと説明したそうだ。また、サンアイは日向製錬所から運搬費をもらっていると言ったそうだ。サンアイの社長は地権者がスラグを買っていると言っているが、それでは地権者はどう言っているのだろう?
地権者の言い分は黒木さんが「それぞれの地権者の言い分」で書いている。それによると三人の地権者うち二人は買っていないと言っている。もう一人はグリーンサンドを買って、サンアイに施工を頼んだと言っているようだ。しかし施工費用について尋ねると二転三転しているようで信ぴょう性に疑問が残る。砂による造成は地震や土砂災害に対して弱いとしか思えない。それにも関わらず地権者が人工砂をわざわざ購入して山林を造成するのはとても不可解だ。
これらのことから、日向製錬所はサンアイにスラグ代金以上の運搬費を支払い、地権者はタダで自分の土地に埋めさせたという疑惑が浮上してくる。これが事実であるなら逆有償取引になるし、明らかに商品ではなく産廃だ。黒木さんはゴミだと言っているが、その主張は正しいということになる。
有害性に関しても黒木さんが沈殿池の水を採取して検査した結果から、有害なスラグを埋めた可能性が高い。黒木さんの検査が信頼できないなどと言っている人もいるようだが、私には黒木さんの検査を否定する根拠は何もない。
スラグを使った工事の許認可を出す行政は、本来なら造成に使ったスラグの検査をして有害物質が含まれていないかどうか確認する責任がある。しかし、宮崎県は検査をしていないという。つまり製錬所のグリーンサンドの検査結果をそのまま認め、有価物だから検査しないと言っているのだ。しかし、上記の毎日新聞の記事にもあるように、許認可に関わっている行政の責任はきわめて大きい。黒木さんが知事に説明を求めるのも当然の行為だ。
日向製錬所はグリーンサンドが無害であり製品だとしている。しかし、「無害な製品」が本当に埋め立てに使われたのだろうか? 製品とするには粒径などが規格に適合していなければならない。さらに、有害物質を除去しなければならない。そのためにはかなりの経費がかかるだろう。だとしたら、安価で売ることはできないだろう。しかも、粒径などで規格に合わないものが必ず出るが、それらの処分はどうしているのだろう? こういうことを考えるなら、製品として規格に適合したグリーンサンドだけを資材として出荷しているとは考えにくく、実際に工事に使っているのは有害なスラグである可能性が高いのではなかろうか。
以前の記事で、これは公害問題であり公共性、公益性があるので黒木さんのブログが名誉毀損には当たらないと私は書いた。この意見は今も変わらないが、名誉毀損における「真実性・真実相当性」を主張するに当たり、逆有償取引の有無や、埋め立てに使われたスラグが有害性も含め規格に適合した製品であるか否かといった点は重要なポイントになると思う。
これを証明するには、被告が裁判長に求釈明を行い、原告らの取引関係の書類を提出させる必要がありそうだ。地権者の証言も有効だろう。しかし原告側が取引書類の捏造をしたり、製錬所とサンアイ、地権者が口裏合わせをする可能性も否定できない。となると、当事者と裁判所の立ち合いのもとで現場に埋められたスラグを掘りだし、規格に適合した製品であるかどうか検査するという方法が確実だ。裁判所が原告に対してこうした指示をすることができるのかどうか私には分からないが、埋められた現物こそもっとも確実な証拠である。
ところで、黒木さんの裁判は、黒木さんがブログに関係者の名刺や顔写真を掲載したことによる名誉毀損であり、また抗議行動での業務妨害だと主張している人がいる。しかし、名刺や顔写真の掲載なら名誉毀損ではなくプライバシーの侵害になるのではなかろうか(ただし責任者の職場の名刺がプライバシー侵害になるとは思えないが)。また、それらは会社が訴えることではなく当事者個人が訴えるべきことだ。
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環廃産発第1303299号
平成25年3月29日
各都道府県・各政令市産業廃棄物行政主管部(局)長 殿
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長
行政処分の指針について(通知)
産業廃棄物行政については、かねてから御尽力いただいているところであるが、今般、平成17年8月12日付け環廃産発第050812003号をもって通知した「行政処分の指針について(通知)」について、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律(平成22年法律第34号)等が平成23年4月1日より施行されたこと等を踏まえ、必要な内容の見直しを行い、別添のとおり「行政処分の指針」を取りまとめたので通知する。
おって、平成17年8月12日付け環廃産発第050812003号本職通知「行政処分の指針について(通知)」は廃止する。
なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的な助言であることを申し添える。
- 2 -
別添
行政処分の指針
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「法」という。)については、累次の改正により、廃棄物処理業及び処理施設の許可の取消し等の要件が強化されるとともに、措置命令の対象が拡大するなど、大幅な規制強化の措置が講じられ、廃棄物の不適正処理を防止するため、迅速かつ的確な行政処分を実施することが可能となっている。しかしながら、一部の自治体においては、自社処理と称する無許可業者や一部の悪質な許可業者による不適正処理に対し、行政指導をいたずらに繰り返すにとどまっている事案や、不適正処理を行った許可業者について原状回復措置を講じたことを理由に引き続き営業を行うことを許容するという運用が依然として見受けられる。このように悪質な業者が営業を継続することを許し、断固たる姿勢により法的効果を伴う行政処分を講じなかったことが、一連の大規模不法投棄事案を発生させ、廃棄物処理及び廃棄物行政に対する国民の不信を招いた大きな原因ともなっていることから、都道府県(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号。以下「令」という。)第27条に規定する市(以下「政令市」という。)を含む。以下同じ。)におかれては、違反行為が継続し、生活環境の保全上の支障を生ずる事態を招くことを未然に防止し、廃棄物の適正処理を確保するとともに、廃棄物処理に対する国民の不信感を払拭するため、以下の指針を踏まえ、積極的かつ厳正に行政処分を実施されたい。
第1 総論
1 行政処分の迅速化について
違反行為(法又は法に基づく処分に違反する行為をいう。以下同じ。)を把握した場合には、生活環境の保全上の支障の発生又はその拡大を防止するため速やかに行政処分を行うこと。特に、廃棄物が不法投棄された場合には、生活環境の保全上の支障が生ずるおそれが高いことから、速やかに処分者等を確知し、措置命令により原状回復措置を講ずるよう命ずること。
この場合、不法投棄として告発を行うほか、処分者等が命令に従わない場合には命令違反として積極的に告発を行うこと。また、捜査機関と連携しつつ、産業廃棄物処理業等の許可を速やかに取り消すこと。
2 行政指導について
行政指導は、迅速かつ柔軟な対応が可能という意味で効果的であるが、相手方の任意の協力を前提とするものであり、相手方がこれに従わないことをもって法的効果を生ずることはなく、行政処分の要件ではないものである。このような場合に更に行政指導を継続し、法的効果を有する行政処分を行わない結果、違反行為が継続し、生活環境の保全上の支障の拡大を招くといった事態は回避されなければならないところであり、緊急の場合及び必要な場合には躊躇ちゅうちょすることなく行政処分を行うなど、違反行為に対しては厳正に対処すること。
- 3 -
この場合において、当該違反行為が犯罪行為に該当する場合には捜査機関とも十分連携を図ること。
3 刑事処分との関係について
違反行為が客観的に明らかであるにもかかわらず、公訴が提起されていることを理由に行政処分を留保する事例が見受けられるが、行政処分は将来にわたる行政目的の確保を主な目的とするものであって、過去の行為を評価する刑事処分とはその目的が異なるものであるから、それを理由に行政処分を留保することは不適当であること。
むしろ、違反行為に対して公訴が提起されているにもかかわらず、廃棄物の適正処理について指導、監督を行うべき行政が何ら処分を行わないとすることは、法の趣旨に反し、廃棄物行政に対する国民の不信を招きかねないものであることから、行政庁として違反行為の事実を把握することに最大限努め、それを把握した場合には、いたずらに刑事処分を待つことなく、速やかに行政処分を行うこと。
4 事実認定について
(1) 行政処分を行うためには、違反行為の事実を行政庁として客観的に認定すれば足りるものであって、違反行為の認定に直接必要とされない行為者の主観的意思などの詳細な事実関係が不明であることを理由に行政処分を留保すべきでないこと。なお、事実認定を行う上では、法に基づく立入検査、報告徴収又は関係行政機関への照会等を積極的に活用し、事実関係を把握すること。
(2) 廃棄物該当性の判断について
① 廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったものをいい、これらに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきものであること。
廃棄物は、不要であるために占有者の自由な処理に任せるとぞんざいに扱われるおそれがあり、生活環境の保全上の支障を生じる可能性を常に有していることから、法による適切な管理下に置くことが必要であること。したがって、再生後に自ら利用又は有償譲渡が予定される物であっても、再生前においてそれ自体は自ら利用又は有償譲渡がされない物であることから、当該物の再生は廃棄物の処理であり、法の適用があること。
また、本来廃棄物たる物を有価物と称し、法の規制を免れようとする事案が後を絶たないが、このような事案に適切に対処するため、廃棄物の疑いのあるものについては以下のような各種判断要素の基準に基づいて慎重に検討し、それらを総合的に勘案してその物が有価物と認められるか否かを判断し、有価物と認められない限りは廃棄物として扱うこと。なお、以下は各種判断要素の一般的な基準を示したものであり、物の種類、事案の形態等によってこれらの基準が必ずしもそのまま適用できない場合は、適用可能な基準のみを抽出して用いたり、当該物の種類、事案の形態等に即した他の判断要素をも勘案するなどして、適切に判断
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されたいこと。その他、平成12年7月24日付け衛環第65号厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長通知「野積みされた使用済みタイヤの適正処理について」及び平成17年7月25日付け環廃産発第050725002号本職通知「建設汚泥処理物の廃棄物該当性の判断指針について」も併せて参考にされたいこと。
ア 物の性状
利用用途に要求される品質を満足し、かつ飛散、流出、悪臭の発生等の生活環境の保全上の支障が発生するおそれのないものであること。実際の判断に当たっては、生活環境の保全に係る関連基準(例えば土壌の汚染に係る環境基準等)を満足すること、その性状についてJIS規格等の一般に認められている客観的な基準が存在する場合は、これに適合していること、十分な品質管理がなされていること等の確認が必要であること。
イ 排出の状況
排出が需要に沿った計画的なものであり、排出前や排出時に適切な保管や品質管理がなされていること。
ウ 通常の取扱い形態
製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないこと。
エ 取引価値の有無
占有者と取引の相手方の間で有償譲渡がなされており、なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があること。実際の判断に当たっては、名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと、当該譲渡価格が競合する製品や運送費等の諸経費を勘案しても双方にとって営利活動として合理的な額であること、当該有償譲渡の相手方以外の者に対する有償譲渡の実績があること等の確認が必要であること。
オ 占有者の意思
客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る占有者の意思として、適切に利用し若しくは他人に有償譲渡する意思が認められること、又は放置若しくは処分の意思が認められないこと。したがって、単に占有者において自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができるものであると認識しているか否かは廃棄物に該当するか否かを判断する際の決定的な要素となるものではなく、上記アからエまでの各種判断要素の基準に照らし、適切な利用を行おうとする意思があるとは判断されない場合、又は主として廃棄物の脱法的な処理を目的としたものと判断される場合には、占有者の主張する意思の内容によらず、廃棄物に該当するものと判断されること。
なお、占有者と取引の相手方の間における有償譲渡の実績や有償譲渡契約の有無は、廃棄物に該当するか否かを判断する上での一つの簡便な基準に過ぎず、廃プラスチック類、がれき類、木くず、廃タイヤ、廃パチンコ台、堆肥(汚泥、動植物性残さ、家畜のふん尿等を中間処理(堆肥化)した物)、建設汚泥処理物(建設汚泥を中間処理した改良土等と称する物)等、場合によっては必ずしも市場の形成が明らかでない物については、法の規制を免れるため、恣意的に有償譲渡を装う場合等も見られることから、当事者間の有償譲渡契約等の存在をもって直ちに有価物と判断することなく、上記アからオまでの各種判断要素の基準により総合的に判断されたいこと。さらに、排出事業者が自ら利用する場合における廃棄物該当性の判断に際しては、必ずしも他人への有償譲渡の実績等を求めるものではなく、通常の取扱い、個別の用途に対する利用価値並びに上記ウ及びエ以外の各種判断要素の基準に照らし、社会通念上当該用途において一般に行われている利用であり、客観的な利用価値が認められなおかつ確実に当該再生利用の用途に供されるか否かをもって廃棄物該当性を判断されたいこと。ただし、中間処理業者が処分後に生じた中間処理産業廃棄物に対して更に処理を行う場合には産業廃棄物処理業の許可を要するところ、中間処理業者が中間処理後の物を自ら利用する場合においては、排出事業者が自ら利用する場合とは異なり、他人に有償譲渡できるものであるか否かを含めて、総合的に廃棄物該当性を判断されたいこと。
② 廃棄物該当性の判断については、法の規制の対象となる行為ごとにその着手時点における客観的状況から判断されたいこと。例えば、産業廃棄物処理業の許可や産業廃棄物処理施設の設置許可の要否においては、当該処理(収集運搬、中間処理、最終処分ごと)に係る行為に着手した時点で廃棄物該当性を判断するものであること。
5 手続について
行政処分を行うに当たっては、行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)第46条及び行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第57条の規定により教示を行うこと。
環廃産発第1303299号
平成25年3月29日
各都道府県・各政令市産業廃棄物行政主管部(局)長 殿
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長
行政処分の指針について(通知)
産業廃棄物行政については、かねてから御尽力いただいているところであるが、今般、平成17年8月12日付け環廃産発第050812003号をもって通知した「行政処分の指針について(通知)」について、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律(平成22年法律第34号)等が平成23年4月1日より施行されたこと等を踏まえ、必要な内容の見直しを行い、別添のとおり「行政処分の指針」を取りまとめたので通知する。
おって、平成17年8月12日付け環廃産発第050812003号本職通知「行政処分の指針について(通知)」は廃止する。
なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的な助言であることを申し添える。
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別添
行政処分の指針
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「法」という。)については、累次の改正により、廃棄物処理業及び処理施設の許可の取消し等の要件が強化されるとともに、措置命令の対象が拡大するなど、大幅な規制強化の措置が講じられ、廃棄物の不適正処理を防止するため、迅速かつ的確な行政処分を実施することが可能となっている。しかしながら、一部の自治体においては、自社処理と称する無許可業者や一部の悪質な許可業者による不適正処理に対し、行政指導をいたずらに繰り返すにとどまっている事案や、不適正処理を行った許可業者について原状回復措置を講じたことを理由に引き続き営業を行うことを許容するという運用が依然として見受けられる。このように悪質な業者が営業を継続することを許し、断固たる姿勢により法的効果を伴う行政処分を講じなかったことが、一連の大規模不法投棄事案を発生させ、廃棄物処理及び廃棄物行政に対する国民の不信を招いた大きな原因ともなっていることから、都道府県(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号。以下「令」という。)第27条に規定する市(以下「政令市」という。)を含む。以下同じ。)におかれては、違反行為が継続し、生活環境の保全上の支障を生ずる事態を招くことを未然に防止し、廃棄物の適正処理を確保するとともに、廃棄物処理に対する国民の不信感を払拭するため、以下の指針を踏まえ、積極的かつ厳正に行政処分を実施されたい。
第1 総論
1 行政処分の迅速化について
違反行為(法又は法に基づく処分に違反する行為をいう。以下同じ。)を把握した場合には、生活環境の保全上の支障の発生又はその拡大を防止するため速やかに行政処分を行うこと。特に、廃棄物が不法投棄された場合には、生活環境の保全上の支障が生ずるおそれが高いことから、速やかに処分者等を確知し、措置命令により原状回復措置を講ずるよう命ずること。
この場合、不法投棄として告発を行うほか、処分者等が命令に従わない場合には命令違反として積極的に告発を行うこと。また、捜査機関と連携しつつ、産業廃棄物処理業等の許可を速やかに取り消すこと。
2 行政指導について
行政指導は、迅速かつ柔軟な対応が可能という意味で効果的であるが、相手方の任意の協力を前提とするものであり、相手方がこれに従わないことをもって法的効果を生ずることはなく、行政処分の要件ではないものである。このような場合に更に行政指導を継続し、法的効果を有する行政処分を行わない結果、違反行為が継続し、生活環境の保全上の支障の拡大を招くといった事態は回避されなければならないところであり、緊急の場合及び必要な場合には躊躇ちゅうちょすることなく行政処分を行うなど、違反行為に対しては厳正に対処すること。
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この場合において、当該違反行為が犯罪行為に該当する場合には捜査機関とも十分連携を図ること。
3 刑事処分との関係について
違反行為が客観的に明らかであるにもかかわらず、公訴が提起されていることを理由に行政処分を留保する事例が見受けられるが、行政処分は将来にわたる行政目的の確保を主な目的とするものであって、過去の行為を評価する刑事処分とはその目的が異なるものであるから、それを理由に行政処分を留保することは不適当であること。
むしろ、違反行為に対して公訴が提起されているにもかかわらず、廃棄物の適正処理について指導、監督を行うべき行政が何ら処分を行わないとすることは、法の趣旨に反し、廃棄物行政に対する国民の不信を招きかねないものであることから、行政庁として違反行為の事実を把握することに最大限努め、それを把握した場合には、いたずらに刑事処分を待つことなく、速やかに行政処分を行うこと。
4 事実認定について
(1) 行政処分を行うためには、違反行為の事実を行政庁として客観的に認定すれば足りるものであって、違反行為の認定に直接必要とされない行為者の主観的意思などの詳細な事実関係が不明であることを理由に行政処分を留保すべきでないこと。なお、事実認定を行う上では、法に基づく立入検査、報告徴収又は関係行政機関への照会等を積極的に活用し、事実関係を把握すること。
(2) 廃棄物該当性の判断について
① 廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったものをいい、これらに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきものであること。
廃棄物は、不要であるために占有者の自由な処理に任せるとぞんざいに扱われるおそれがあり、生活環境の保全上の支障を生じる可能性を常に有していることから、法による適切な管理下に置くことが必要であること。したがって、再生後に自ら利用又は有償譲渡が予定される物であっても、再生前においてそれ自体は自ら利用又は有償譲渡がされない物であることから、当該物の再生は廃棄物の処理であり、法の適用があること。
また、本来廃棄物たる物を有価物と称し、法の規制を免れようとする事案が後を絶たないが、このような事案に適切に対処するため、廃棄物の疑いのあるものについては以下のような各種判断要素の基準に基づいて慎重に検討し、それらを総合的に勘案してその物が有価物と認められるか否かを判断し、有価物と認められない限りは廃棄物として扱うこと。なお、以下は各種判断要素の一般的な基準を示したものであり、物の種類、事案の形態等によってこれらの基準が必ずしもそのまま適用できない場合は、適用可能な基準のみを抽出して用いたり、当該物の種類、事案の形態等に即した他の判断要素をも勘案するなどして、適切に判断
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されたいこと。その他、平成12年7月24日付け衛環第65号厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長通知「野積みされた使用済みタイヤの適正処理について」及び平成17年7月25日付け環廃産発第050725002号本職通知「建設汚泥処理物の廃棄物該当性の判断指針について」も併せて参考にされたいこと。
ア 物の性状
利用用途に要求される品質を満足し、かつ飛散、流出、悪臭の発生等の生活環境の保全上の支障が発生するおそれのないものであること。実際の判断に当たっては、生活環境の保全に係る関連基準(例えば土壌の汚染に係る環境基準等)を満足すること、その性状についてJIS規格等の一般に認められている客観的な基準が存在する場合は、これに適合していること、十分な品質管理がなされていること等の確認が必要であること。
イ 排出の状況
排出が需要に沿った計画的なものであり、排出前や排出時に適切な保管や品質管理がなされていること。
ウ 通常の取扱い形態
製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないこと。
エ 取引価値の有無
占有者と取引の相手方の間で有償譲渡がなされており、なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があること。実際の判断に当たっては、名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと、当該譲渡価格が競合する製品や運送費等の諸経費を勘案しても双方にとって営利活動として合理的な額であること、当該有償譲渡の相手方以外の者に対する有償譲渡の実績があること等の確認が必要であること。
オ 占有者の意思
客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る占有者の意思として、適切に利用し若しくは他人に有償譲渡する意思が認められること、又は放置若しくは処分の意思が認められないこと。したがって、単に占有者において自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができるものであると認識しているか否かは廃棄物に該当するか否かを判断する際の決定的な要素となるものではなく、上記アからエまでの各種判断要素の基準に照らし、適切な利用を行おうとする意思があるとは判断されない場合、又は主として廃棄物の脱法的な処理を目的としたものと判断される場合には、占有者の主張する意思の内容によらず、廃棄物に該当するものと判断されること。
なお、占有者と取引の相手方の間における有償譲渡の実績や有償譲渡契約の有無は、廃棄物に該当するか否かを判断する上での一つの簡便な基準に過ぎず、廃プラスチック類、がれき類、木くず、廃タイヤ、廃パチンコ台、堆肥(汚泥、動植物性残さ、家畜のふん尿等を中間処理(堆肥化)した物)、建設汚泥処理物(建設汚泥を中間処理した改良土等と称する物)等、場合によっては必ずしも市場の形成が明らかでない物については、法の規制を免れるため、恣意的に有償譲渡を装う場合等も見られることから、当事者間の有償譲渡契約等の存在をもって直ちに有価物と判断することなく、上記アからオまでの各種判断要素の基準により総合的に判断されたいこと。さらに、排出事業者が自ら利用する場合における廃棄物該当性の判断に際しては、必ずしも他人への有償譲渡の実績等を求めるものではなく、通常の取扱い、個別の用途に対する利用価値並びに上記ウ及びエ以外の各種判断要素の基準に照らし、社会通念上当該用途において一般に行われている利用であり、客観的な利用価値が認められなおかつ確実に当該再生利用の用途に供されるか否かをもって廃棄物該当性を判断されたいこと。ただし、中間処理業者が処分後に生じた中間処理産業廃棄物に対して更に処理を行う場合には産業廃棄物処理業の許可を要するところ、中間処理業者が中間処理後の物を自ら利用する場合においては、排出事業者が自ら利用する場合とは異なり、他人に有償譲渡できるものであるか否かを含めて、総合的に廃棄物該当性を判断されたいこと。
② 廃棄物該当性の判断については、法の規制の対象となる行為ごとにその着手時点における客観的状況から判断されたいこと。例えば、産業廃棄物処理業の許可や産業廃棄物処理施設の設置許可の要否においては、当該処理(収集運搬、中間処理、最終処分ごと)に係る行為に着手した時点で廃棄物該当性を判断するものであること。
5 手続について
行政処分を行うに当たっては、行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)第46条及び行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第57条の規定により教示を行うこと。